2005年12月21日

タイトルは『ハリー・ポッターと謎のプリンス』

ハリー・ポッターと謎のプリンス
J.K.ローリング著 / 松岡佑子訳
静山社 (2006.5)
近日発売 予約可

 第6巻のタイトルが正式に決定したようです。『ハリー・ポッターと謎のプリンス』。原書タイトル"Harry Potter and the Half-blood Prince"を文字通りそのまま訳したもの、『ハリー・ポッターと混血のプリンス』が仮題としてこれまで示されていましたが、今回タイトルの変更に踏み切ったのは『ハリー・ポッターと秘密の部屋』における差別表現のことを考慮したように感じられましたが、そうとは言い切れないようです。
(12/22 内容の論点を改め、追記しました)
(2006/1/4 一部を非表示にしていましたが、ネタばれではないのでそちらは表示。頂いたコメントを記事に移しましたが、こちらはネタばれになるのでこちらを非表示に変更しました)

 以前、『ハリー・ポッターと秘密の部屋』の本文中に「差別表現」があるということで、話題になりました。図書館の蔵書についての対応がたびたび話題に登ったことを覚えていらっしゃる方もいるかと思います。問題とされた箇所はその後の66刷以降削除されたとのことで、わたし自身も書店に並んでいるもので確認したことがあります。
(※こちらの差別表現や図書館の対応についてはよっしーヨシのひとりごと内の「図書館に関するあれこれ」に詳しく出ています)

 今回変更になった部分「混血」についても出版後の同様な指摘等を避けたかったのではないか、と思えてしまうところです。フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』において「差別用語」の項目の中で「混血」も取り上げられています。しかし、差別用語だったから変更したとわけではないのかも?という疑問も残ります。というのは、これまでもたびたび"half-blood"ということばは使われており、邦訳でもこのことばは「混血」と訳されているからです。
"You dare speak his name with your unworthy lips, you dare besmirch it with your half-blood's tongue, you dare--"
"Did you know he's half-blood too?" said Harry recklessly.
("Harry Potter and the Order of the Phoenix" UKハードカバー版 P691〜692)

「おまえの汚らわしい唇で、あの方のお名前を口にするでない。混血の舌で、その名を汚すでない。おまえはよくも――」
「あいつも混血だ。知っているのか?」ハリーは無謀にも言った。
(『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』下巻 P564)


 これまでの物語の経緯で、「混血」はマグルと魔法使いの間に生まれた子どもという意味合いで語られています。(このことを想起させる効果も作者は狙っていたと思います)上記で引用したように訳語として定着している上、「仮題」としても定着しているようでした。敢えて変更した理由はなぜだったのでしょう? 差別表現ということでなかったとしたら? 単に「謎」ということばのニュアンスを好んだだけではないと思いますが、これまでの翻訳では全て直訳と言ってよいタイトルばかりだったので、今回の変更の意図が気になってしまいます。

 6巻のタイトルになっている「混血のプリンス」はハリー・ポッターシリーズで言えば「賢者の石」や「秘密の部屋」と同種のことばで、キーワードと言えるでしょう。このことばの指すものはいったい何?ということを考えながら読み進めていく楽しみがあります。この「混血のプリンス」ということばは単にタイトルになっているだけでなく、本文にも示されていることばです。「混血のプリンス」は謎の人物のことを示すヒントでありキーワードです。だから、この謎の人物についてのヒントが「謎のプリンス」に変わってしまうと、少し違和感を感じるのです。――つまり、「謎の人物は『混血のプリンス』だった」は意味が通りますが、「謎の人物は『謎のプリンス』だった」となると意味は通りません。この改訳の「謎のプリンス」の「謎」には含みがありません。ただわからないというだけの表面的な意味に留まります。本文中でこのことばが別のことばに置き換わっているのならタイトルもそちらに変更すればよいように思いますし、本文に「混血のプリンス」と使用するのだったらタイトルを変える必要はないと感じてしまいます。どうなるのでしょう? 「謎のプリンス」は物語のインパクトがぼやけてしまう印象を受けました。なんとなく「謎のプリンス」に居心地の悪さを感じました。
 今後、翻訳の本文では「混血」ということばは使われないのでしょうか? このことが今一番気になっています。

★追記(2005/12/22)
 "half-blood"は考えれば考えるほど重要な意味を含んだ単語だと改めて感じました。このことを翻訳者はやはり考慮してのことなのでは?と感じるようになりました。"half-blood"は日本語の「混血」で決定しきれない要素があるのだと思います。「謎」よりは「混血」のほうがいいように思えていましたが、そうとも言い切れないのかもしれません。いろいろなことを想像させることばとして作者がこの"half-blood"を選んだのでしょう。ひとつのことばでこんなにもいろいろ考えたりさせられてしまという物語、やっぱり面白い! ――結局これ、といういい訳がでてこなかった苦肉の策なのかもしれません。
 「混血」と訳してしまえない事情はその「含み」にあるのかもしれません。本文中ででてくる"Half-blood Prince"はどのように訳されているのでしょうか? 訳がさらに気になった今日の朝でした。

※タイトルを決定することに関しては翻訳者が苦労されていることをサイトで語っています。
邦題決めるもひと苦労〜ハリー・ポッター英語版、第5巻へ〜



★2006/1/4 追記 
頂いたコメントをこの記事中に移動。
ハンドルなし。コメント中のネタばれに関する部分はコメント欄では削除させていただいております。
ネタばれの範囲に入ると判断しましたので、読まれる方は↓↓にマウスを置いてください。

water-3.gif

こんばんは、

11月26日に発売されたブラジル版の6巻タイトルは、
"Harry Potter e o Enigma do Príncipe"
JKRさん自身が、いくつかの候補から選ばれたそうです。
これを英語に訳すと
"Harry Potter and the Enigma of the Prince."
『Half-Blood』 というのが 『Enigma』 (謎の)と意訳されています。

6巻を既に読まれた方はおわかりだと思いますが、内容からすると、英語版タイトルの 『Half-Blood 』 は『混血』という意味ではないので、直訳して『混血のプリンス』にしてしまうと、原書の内容からするとちょっとおかしいとずっと思っていました。
『Half-Blood Prince』は、『混血のプリンス』という意味ではなく『プリンスの血を半分引いた者』という意味です。でも、日本語版のタイトルに『ハリーポッターとプリンスの血を半分引いた者』なんてつけられませんよね。これでは、タイトルでネタバレしてしまいます。

JKRさん自身がブラジル版に 『謎のプリンス』 というタイトルを認められた(選ばれた)のであれば、私は日本語タイトルも 『ハリーポッターと謎のプリンス』が妥当じゃないかな?なんて思います。
Posted by at 2006年01月02日 20:27 (ハンドル記入なしさんから)

water-3.gif
posted by kmy at 22:18| Comment(15) | TrackBack(4) | 雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
kmyさん、こんにちは。
TBありがとうございます。
「混血」は差別用語だからタイトルとしては不適切ではないかと思ったのですが、言われてみれば既に本文中で何度か出ていましたね。
私は6巻購読中なので6巻における"half-blood"がどういう意味を持つのかまだ知りません。記事の隠された部分も読まなかったのですが、"half-blood"が今まで同様マグルと魔法使いとの間の子どもを指していないのであれば、混乱を避けるため「混血」を使わなかったとも考えられますね。
マグルとの混血は「混血」と表記して、「Half-Blood Prince」の固有名詞のみ「謎のプリンス」と表すのかもしれないと思いました。
Posted by 二尋 at 2005年12月21日 23:33
たいした記事ではありませんが、こちらからもTBさせていただきました。
Posted by 二尋 at 2005年12月21日 23:44
二尋さん、こんにちは♪
記事を書いてから一晩経ってみると、うーん、「謎」では浅い雰囲気がありますが、「混血」が正しいかと言えばそうとも言い切れない気がしてきました。少し追記をしておきました。
タイトルもそうですし、二尋さんは読み進めていらっしゃるので、本文中にでてきたことを覚えているかと思います。途中ででてきたときもこの意味するものは?と悩ませますよね。そこが作者の狙いなんでしょうね。
そういえば「不死鳥の騎士団」の"oder"でもかなり考えたと翻訳者が語っていましたから、このあたりの事情も発売後に話されるかもしれませんね。
今まで、何となく「混血のプリンス」といわれてそうかなと漠然と思っていましたが、改めてタイトル変更に至ったのは、適切なことばが見つからなかったともいえると思えてしまいますけど。
やっぱり英語と日本語での意味とことばが完全に一致するのではなく、部分的に一致することはを使わざるを得ないということで考えさせられます。
それなりに翻訳も苦労されていることと思いますが、誰にとっても納得の翻訳は難しいでしょうけど、あ、いいなと思わせるような訳がでることを期待したいと思います。

隠してみた部分を読み返してみると、隠す必要もなかったみたい気がします、どうぞ、お読みください。あらすじとか、人物とかには一切触れていませんので。

Posted by kmy at 2005年12月22日 10:47
こんばんは。はじめまして。kmyさん。
綾里と申します。
いつもサイトやブログの考察を楽しく拝見させていただいております。
タイトルも『混血のプリンス』で定着しているように感じたので、今回の変更は驚きましたが、『謎』という言葉では、確かに浅いような漠然とした印象が拭えませんけれど、いろいろな候補の中から選ばれた言葉なのかもしれませんね。

あまり話題を広げることは出来ませんでしたが、私もブログで記事を書きましたのでTBさせていただきました。
それと、少しだけkmyさんの記事を参考にさせていただきました。
それでは、失礼させていただきます。
これからもブログを楽しみにしております。
では。
Posted by 綾里 未優 at 2005年12月22日 20:18
綾里未優さん、はじめまして。
記事お読みくださいましてありがとうございます。
訳というのは難しいですね。より日本語として自然なものを目指しておられるのでしょうが、タイトルだけでなくこの巻は読んでいてどういう訳を当てるのだろう?と気になった箇所がいくつもありました。
5巻でも馴染みのないものについては訳が省かれていたところもあったので、6巻の翻訳気になります。(その前に読み直したほうがいいのですけど)

記事を読んでくださいましてありがとうございます。TB先の記事も拝見させていただきますね。
Posted by kmy at 2005年12月23日 16:09
こんにちは。kmyさん。
そうですね。難しい問題ですね。
しかし、私が思うには、読者の理解に委ねて「混血」と訳すのも良いのではないかと思います。
しかしもしかすると、この翻訳は二尋さんがおっしゃるように固有名詞としての意味から「謎のプリンス」にしたのかもしれません。
またやはり2巻の事もふまえて、二の舞にならないようにしたのかもしれません。しかし今までたびたび使われてきた言葉でもあり、一体どうなのか、わかりませんね。

Posted by 朔夜 at 2005年12月26日 15:25
朔夜さん、コメントありがとうございます。
今まで使用してきた「混血」を想起させるようなところもありますので、翻訳者の意図はどうなのだろう?とあれこれ考えてしまいます。
翻訳後に意外とああ、そういうことでこういう訳にしたのかも、と納得できるといいのですが。
「混血」と訳すのもよいかもという朔夜の考えも頷けます。「謎」はやっぱり意味が浅く感じられますので。

まだ時間がありますから、よい翻訳を期待したいと思います。
Posted by kmy at 2005年12月26日 18:43
Kmyさん、こんにちは。
私はまだ「混血のプリンス」の正体はわからないのですが、「混血のプリンス」という言葉は出てきました。これは「謎」に変えたら意味が通じないと思います。(ネタバレになるので、これ以上は言いません)
ハリー・ポッターのなかで、“差別”は大切な要素です。「秘密の部屋」だけでなく、シリーズ全体を通して、“差別”についてローリングさんは考えて欲しかったのではないでしょうか?ハリー・ポッターから“差別”の問題をとったら面白さが半減すると思いませんか?
素人が文句を言えることではありませんが、私は「謎のプリンス」はちょっとな・・・と思っています。
Posted by Risa at 2005年12月27日 17:43
Risaさん、コメントありがとうございます。
そうなのですよね。本文も「謎のプリンス」にしてしまったら意味が通じないと思います。うーん、どうなのでしょう? 本文と同じ表現でもよかったのでは、と思いますが、翻訳者としてはタイトルはあえてぼやかした感じの印象のほうがよかったと判断したのでしょうか?

差別についてのことも興味深く感じました。
全体を通して様々な「差別」について語っていますよね。(マグル、しもべ妖精、巨人etc……)決して差別を助長しようという意図ではなく、むしろ逆のことを感じ取る読者が大半であるとは思うのですが。そうした要素をどのよう表現するかは難しい問題だと思います。「差別表現」の問題は難しいですね。それを差別的な意味で使わなくとも、ことばそのものの使用がはばかれる風潮になっていることとというのは簡単には「こうしたほうがよい」とは言い切れない問題です。
翻訳というのは難しいですね。本当にそう感じる改題でした。
Posted by kmy at 2005年12月28日 15:11
こんばんは、

11月26日に発売されたブラジル版の6巻タイトルは、
"Harry Potter e o Enigma do Príncipe"
JKRさん自身が、いくつかの候補から選ばれたそうです。
これを英語に訳すと
"Harry Potter and the Enigma of the Prince."
『Half-Blood』 というのが 『Enigma』 (謎の)と意訳されています。


(この部分は書かれた方自身が「タイトルでネタばれになる」と書かれていますので、本ブログの趣旨「コメント欄でネタばれは控えていただくこと」に照らし合わせて本文記事中に移動させて頂きました。本文にコメント全文が載っております。ご了承ください。
また、以前コメントされた方かどうかIPで検索させていただきましたが、初コメントの方のようです。 記事に対してのご意見等ございましたらメールにてお願いします。
                 以上 2006/1/4 kmy)


JKRさん自身がブラジル版に 『謎のプリンス』 というタイトルを認められた(選ばれた)のであれば、私は日本語タイトルも 『ハリーポッターと謎のプリンス』が妥当じゃないかな?なんて思います。
Posted by at 2006年01月02日 20:27
確かにタイトルには唸ってしまうところです。タイトルはほのめかす程度にする、というところかもしれませんね。翻訳の難しさを感じた一面でした。
邦訳発売後は「どのように訳したのか」という視点でもじっくり読みたいと思います。
コメントありがとうございました。参考になりました。
Posted by kmy at 2006年01月04日 10:42
kmyさん、こんにちわ
 私も全く同感です。「謎のプリンス」にするとニュアンスが全然違ってきちゃいます。実は5話の「不死鳥の騎士団」も個人的には(?)だったんですが、意味自体はそんなに違ってないし、ハリーを取り巻く環境はなんとなく古めかしいので「騎士団」もありかなと納得したところでした。
 JKRさんを真似して私もフランス語サイトを見てみました。Harry Potter et Le Prince de sang mele" Half-blood Prince の直訳でした。
 
Posted by ぴぐもん at 2006年01月12日 12:33
ぴぐもんさん、コメントありがとうございます。翻訳というのは難しいものですね。「騎士団」ということばも古めかしい感じがします。もともと日本語で書かれた物語で日本が舞台だったらこんなことばは使わないのかもしれない、と思ったりします。ぴったり合うことばを探すのは英語→日本語というでは難しいことなのだとは思うのですが。言葉遊びもどうやって訳すのかいつも気になります。言葉遊びも「解釈」になりますし、原文の雰囲気とは多少異なりますね。
フランス版のお話もありがとうございます。仏語は全くわからないので参考になりました。
Posted by kmy at 2006年01月13日 08:56
 表題に使わなかったのは、ハリーポッターを読んでいない人たちから誤解を避けようとしたのではないでしょうか?
 混血という言葉だけで判断される危険性を考慮して訳語を変更したのではないでしょうか?

 蛇足ですが、ハンガリー版では Harry Potter es a Felver Herceg の予定です。辞書で調べてみたところ、 Fel は半分、Ver は血液の意味でした。日本語版2巻7章171ページでロンが混血と発言していますが、ハンガリー版該当箇所では Felver となっていますので、ハンガリー版の6巻も直訳と思われます。
Posted by たこぽん at 2006年01月16日 23:37
たこぽんさん、コメントありがとうございます。
ハンガリー版についての情報も教えていただき、大変参考になりました。
タイトルとしての「混血」は内容に即した意味が不適当というのではなく、広く知られるタイトルとして考慮したというご意見を伺って、なるほどと感じました。内容で出てくる部分に関しては「混血」のままかもしれませんね。(別の訳語を当てる可能性もあるかもしれませんが)
Half-Bloodということば、作者が考え抜いたものだと強く感じます。6巻のことばあそび的な部分をどう訳しているのかが非常に気になります。
Posted by kmy at 2006年01月17日 14:22
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